「悪から善をつくらなければならない(ほぞ)」
タリオンギャラリーでは、松尾勘太、若林菜穂による展覧会「悪から善をつくらなければならない (ほぞ)」を開催いたします。是非ともご覧下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。
松尾勘太は油彩を用いて、舞台設定のように仮構された空間の拡がりと、そこに発生する様々な異形、量感を伴いながら鈍く光る体躯や顔容を描きます。視覚的欲望が投影され、筆触の線描的な彫塑と触覚的な流動によってレンダリングされたその絵画は、見る者の網膜に瞬間的に現れずに、遅延して感覚や記憶に現れる持続的なスクリーンのように作用します。若林菜穂は、撮りためた写真やカラーペーパーなどから作るコラージュを、一枚の絵画の系へと自らの眼や手を経由して絵具に置き換えることで制作を行っています。印刷物のざらつきやディスプレイ上の明度、そして作家の記憶の断片を混ぜ合わせつつ描かれる作品は、現実とは切り離された所在なさとともに、それを見る者の記憶の在りかに直接触れるかのようなシンクロニックなモチーフに満ちています。
本展覧会名は、「ストーカー」(アンドレイ・タルコフスキー監督、1979年) の脚本もつとめたアルカジー&ボリス・ストルガツキーによる原作の冒頭に引用された言葉「君は悪から善をつくらなければならない。なぜならこの世には悪しかないのだから (You have to make the good out of the bad because that is all you have got to make it out of.)」に由来し、臍(へそ)や枘接ぎ(ほぞつぎ)を指す「ほぞ」が付け加えられています。このフィクションにおいて異星人が立ち去ったあとの奇妙な現象がつづく地球上のエリアは、そこに残された有用な何ものか、何でも願いが叶うという球体を求めて、ストーカー(獲物にしのびよる者)たちが感覚を研ぎ澄ませて飛び込んでいく、人間的な欲望や願望が投影される場所でもありました。
絵画の特権的布置を主題とする本展では、絵画という球面または平面のいずれかではなく、この二つの面の交差する場に意識を差し向けます。球面とはたとえば眼であり、あらゆる描画は画家にとっても鑑賞者にとっても、矩形として規定される以前の、球面に写された何ものかです。また、絵画というフォームをもたらした歴史・社会的慣習や制度の移植に関わるしこりや、モダンアートの内発的発展史観とマーケティズムの関係に纏わるわだかまりについて、展覧会を通して思考を及ぼすことも念頭におかれています。どうぞご期待ください。
- 会 場
- タリオンギャラリー > HP
- 住 所
- 豊島区目白2-2-1 B1F
- 電 話
- 03-5927-9858
- OPEN
- 11:00-19:00
月火祝休廊